”死の行軍”と執念のカレー自炊 〜瑞牆山・金峰山縦走〜(1)
人の記憶は時間が経つほどに、ある一点だけを強調したまま風化すると言う。
それは、極度に美化されるか、またその逆もしかり。
我々のパーティーにとって未だに強烈に記憶に残っている山行がある。
呼び起こされる記憶は、単に”つらさ” の一点のみ。
色々なことがあったと思うが、もはやその印象しかない。
「山で何かを作って食う」ということに
悪い意味で自信を持ち、ハマり始めた頃の、”一番調子に乗っていた頃”の話。
今回はそんな頃の話をひとつ。
謎の重装
2,000m級の山を数本こなし、山に食材を持ち込むことにすっかり慣れ、
自信と心地よさを感じ始めていたころ。
今度は山でカレーを作りたい。
平地キャンプでやっている、本格的なカレーを。
タマネギもニンジンも。一から煮込む。
そして飯ごうも、鍋も持ち込んで作ってみたい。
まさに無知ゆえに無敵の発想。そんなことを漠然と考えていた。
そして我々は当時、”縦走”というものをしたことがなかった。
それもやってみようと。
”縦走”をする、という表現に憧れ、
なんとなく候補に挙がったのが山梨の北西部に位置する、
ここを、鍋やら飯ごう、バーナーにボンベ、そして食材・酒をもりもり担いだ、
謎の重装備にて1泊2日で攻める。
今思えばこれはもはや山行ではなかった。”行軍”に近い。
自己満足と、自信過剰さゆえの目的なき行軍。
この”行軍”は今のところ、我がパーティー最悪の記憶となって
おのおののハートに刻まれている 。
”行軍スタート”
山梨北西部・奥秩父の山域に位置する山塊。
れっきとした百名山であり、山頂からは富士山や南北アルプスを見渡せる。
未明の中央道から須玉ICで高速を降り、
5時前に登山口である瑞牆山荘へ。ここの無料駐車場から全てがスタートする。
この日の参加者は4名。
登山前に全員の持ち物チェック。
鍋(カレー用)
飯ごう
バーナー×4
ボンベ×4
クッカー×4
タマネギ(冷凍)
ニンジン(冷凍)
豚肉(冷凍)
米(三合)
水(料理用)
水(飲料用)×各人
酒(芋焼酎800ml)
全員が全員、”山で何かを作りたい”という気持ちが強すぎて、
どうしても一人一台、バーナーとクッカーは絶対持ち込んでしまう。
これはどうしてもそうなってしまう。いまだに。
で、全員がどこかでそれを使う場面を探して、
毎回おのおの、「ちゃんと使う」。
なので、この日も機材はもちろん、食材についても
誰からも減量の突っ込みが入ることなく、全て山へ持ち込むことに。
強いて言えば、酒の量が多いのでは、という異議はあった。
が、それも束の間、一笑に付されて終わる。
繰り返すが、無知とは無敵だ。無敵艦隊だ。
かくして、空が明るくなった午前5時半。
無知で無敵の行軍はスタートしたのである。
山梨県北杜市(旧北巨摩郡須玉町)にある標高2,230mの山で、奥秩父の山域の主脈の一つ。旧須玉町域の最北部にあたる。日本百名山のひとつ。全山が黒雲母花崗岩で形成される。南西部は風化や浸食の影響を受け、独特の岩峰が聳える景観を作っており、地元ではコブ岩と呼ばれる。
山梨県甲府市と長野県南佐久郡川上村の境界にある標高2,599 mの山である。別名「甲州御岳山」。山頂部は開けていて360度の展望があり、「五丈岩」という大きな岩がある。
”死の行軍”と執念のカレー自炊 〜瑞牆山・金峰山縦走〜(2)へ続く