槍ヶ岳でカオマンガイをつくる、の巻(2)
先に言っておこう。
槍ヶ岳におけるカオマンガイ。
これはいつになく最高の出来だった。
飯ごうをガラガラいわせながらバックパックに背負い、
これをバーナーで沸騰させ、米を炊く。
高地は言わずもがな気圧が低い。よって沸点も低い。
槍ヶ岳山荘は実に標高3080mだ。
自分で言うのもなんだが、
ここで炊飯を成功させるのは割と難易度が高い。
だが何回も山で米を一から炊いているうちに感覚が宿った。
勘だ。
誰にも共有できないし、引き継ぐ事も出来ない。
勘で米を炊いている。
カオマンガイ×槍ヶ岳
カオマンガイ、今回は
事前に家で仕込みをして持ち込んだ。
レシピは以下の通り。
■材料
・鶏もも肉:1枚(これを細かく切って冷凍。登山中の解凍を狙う)
・米:2合
・水:2合よりもやや少なめ
・塩:一つまみ
・鶏ガラスープ:小さじ1
※塩と鶏ガラスープはあらかじめ混ぜて持参
■タレ
・醤油:大さじ2
・穀物酢:大さじ2
・すりおろし生姜:小さじ2
・ごま油:小さじ2
※これを事前に混ぜ、ペットボトルに入れて持参。
当時は夏場。
鶏の持ち込みにはやや勇気が要ったが、
冷凍に加え、ジップロックに保冷剤をぶちこんで持ち込んだ。
そして8時間半の熾烈な山行を経て、(前回参照)
槍ヶ岳山荘到着は17時過ぎ。
着くやいなや、さっそく調理を開始する。
飯ごうに米、水、塩と鶏ガラ、解凍された鶏ももをぶち込んで炊く。
夕日に照らされる槍のピーク。
美しいその姿をバックに、ひたすら炊く。
・・・寒い。
夏なのに気温は1ケタ台だ。
・・・炊く。
でも寒いので飯ごうを置いて山小屋に引き返す。
しばらくして戻る。夕日の槍を見上げる。
・・・飯ごうを見守る。
でも寒いから小屋に戻る。
焼酎を飲む。炊いているのを忘れて慌てて戻る。
・・・なんてことを繰り返しているうちに、
フタからあぶくが滴り落ちる。湯気が出てきた。
かすかな米の匂い。
ここからはしつこいようだが勘だ。
勘でここぞというタイミングで飯ごうをひっくり返す。
しばらく蒸らしてフタを開ける。
・・・・・・・か、完璧だーー!
繰り返すがこれは勘だ。
勘なので誰にも引き継げない。
コツは墓場まで持っていくことになるでしょう。
そして、言っておく。
炊きあがりは最高だった。だが、写真が最悪だった。
寒すぎた。
寒すぎて、見栄えを整える気持ちがゼロだった。
結果、生ゴミみたいな見栄えになってしまった。
でもね、旨かったのよ。ほんと。旨いのよこれ。
ぜひ皆さんも試してください。
槍ヶ岳登頂
さて、話は本題の槍ヶ岳登山。
夜明け前に目が覚めた。
ふいに外に出てみようと思った。
山荘から、まだ暗い槍ヶ岳山頂を見上げると、
ヘッドライトがチカチカ、山頂を目指して登っている。
こんな未明から?あの断崖絶壁を?真っ暗なのに?
命知らずもいるもんですね。やはり経験がなせる技なんでしょうね。
まだ槍ヶ岳お初なこちらとしては、ただ驚くばかりでした。
技術と勇気に敬意を表したい。
さて、すっかり夜も明けて朝。
我々もいよいよ槍ヶ岳山頂を目指す。
メットをね。借りられますよ。山荘で。
というか借りるか持参しないと山頂を目指すのはダメ。
命に関わります。
外から見てると、こんな断崖を登れる気が全くしなかったのですが、
いざ登り始めても、そんな気はまったくしませんでした。
ほんと、割とずっしりと”切迫した命の危険”を感じた。
下を見るとさっきまでいた山荘があんなに小さい。
岩場を鎖を伝いながら、そして時には素手でよじ登る。
ハシゴは垂直。本当に垂直。
ここにハシゴを掛けた人を心からリスペクトしたい。
そう思いながら一歩一歩、極めて慎重に山頂を目指す。
ーーーーーーそして山頂。
槍ヶ岳、標高は日本で5番目。
3180mの頂からは、北アルプスが一望できるのはもちろん、
遥か八ヶ岳、富士山までもうっすらと。
空気が澄み切っておりました。
本当に、空気が澄んでいた。なんだろう。あの空気は。
ああ、ついに槍を登ってしまった。
次はいったい何を目指せばいいのだ。
そんな喪失感さえ芽生えるくらい、なんと偉大な山なのか。
槍ロスです。
でも次はもう少し腕を上げて、
別のルートでぜひ槍にアプローチしたいもの。
リメンバー、槍。
そして次は、もう少し、飯ごうの写真をちゃんとしたい。
その思いも込めて。