”死の行軍”と執念のカレー自炊 〜瑞牆山・金峰山縦走〜(2)
ふと思う。
今でこそ、この山行よりも
標高、勾配、登山時間、どれを取ってもキツめの登山を経験しているが
それでもまだ記憶の中で、この縦走が一番つらい思い出になっている。
なぜだろう?と。
たぶん、それは
登山中に「心が折れてしまった」から。
この時の山行で圧倒的に悪い点がひとつあった。
それは、”あと何時間で山小屋につくのか?”
という計算を甘めに読んでいたがために感覚が狂い、心の余裕がなくなったこと。
ルートは外さずとも、”心の遭難”をしていたんだろうと思う。
これはある意味物理的な遭難よりも怖いかもしれない。
余裕の瑞牆山
山頂付近に近付くにつれ、ガレ場が目立つ。
初日山行の予定は、まず瑞牆山頂を目指し、休憩のち下山。
分岐の富士見平小屋まで下って、
その足で即、金峰山登山を開始。
当日夕刻までに宿泊先である山小屋、金峰山小屋を目指す、というもの。
地図上の数字だけではざっと7時間。
そして、おそらくこれは”縦走”ではない。
体感的にはただ単に2,000m級の山を立て続けに二つこなす、と言ってよい。
しかも1日で。
なんとも強気なルートを取ったものだと今でも思う。
登山口の瑞牆山荘から登山を開始して約45分。
富士見平小屋にぶつかる。(標高1816m地点)
我々は瑞牆山頂に登頂後、またここまでいったん戻るわけだ。
富士見平小屋から歩いてすぐのところにも湧き水があり、
ここで飲料水の補充が可能だ。
瑞牆山は後半、山頂付近の大ヤスリ岩を
前方に見ながらの山行になる。
ガレ場好きにはたまらない景観。 おのずとテンションもあがる。
富士見平小屋から瑞牆山頂までは2時間ほど。
山頂ではコーヒー豆をひいて、
沸かしちゃったりする余裕も。そう。このときはこれくらいの余裕があった。
「あそこらへんが山小屋かなー」
なんていいながら美味しくコーヒーをいただいちゃう余裕。
今思えば、この時点からやや時間感覚が狂っていたのかもしれない。
はじめての縦走。
縦走の場合、地図上の単純合算で時間を見積もるのは危険だ。
実際には疲労や体調によりスピードに影響があるはずで、
やはりここの感覚はまだまだ甘かった。
地獄の金峰山、稜線をゆく
さて、一行は瑞牆山を富士見平小屋まで下り、
金峰山を黙々と登り始める。
正直、本当にきつかったのか、
ここの記憶は曖昧だ。
登山中の写真も、この部分はすっぽり抜け落ち、
撮る余裕すらなかったのか、まともな写真が残っていない。
唯一覚えている記憶が
はあはあ言いながら力を使い切り、登りきった先。
てっきりそこを山頂とばっかり思い込み、全ての力を出し尽くしたのだが、
そこは山頂ではなく稜線の一番端だったこと。
そしてここで完全に心が折れたこと。
そしてそこから1時間〜2時間ほど心が折れたまま
稜線を歩き続けたこと。
疲労から時間の感覚が完全に狂い、
山小屋までの到着タイムを見失ったこと。
心が折れた状態で、且つゴールまでどれくらいか分からないまま
ただ黙々と数時間歩き続けるということ。
それは苦痛でしかない。
もはや記憶が曖昧なので曖昧のまま書くが、
おそらく到着時刻は16時くらいだったのではないだろうか。
朝の5時に登頂開始。
だとすると11時間歩き続けたことになる。
しかも後半数時間は心が折れた状態で。まさに地獄の行軍だ。
いや、行軍なんて格好いいものではないかもしれない。
敗走だ。これはまさに山からの敗走だった。
命のカレー。執念の自炊
山小屋の写真がない。
たぶん疲労困憊で撮るどころではなかったのだろう。
それでも、半ば今回の目的であり、
ある意味疲労の原因であった機材を山小屋のテーブルにばらばらと並べる。
カレー。
地上さながらのカレーを作る。
それだけは、それだけはどうしてもやらなければ。
だってやらないと何故来たか分からないから・・・
それはまさに執念だった。
ここからはダイジェストで。
・・・どうでしょうか?
ほんとにただ、カレーを作ってるだけですよね。
特に何のひねりもないです。
ただ、本来であれば軽量化とか、
何かを妥協するとか、何かしらの配慮が働き、
コンパクトな山仕様のカレーであるべきところ、
ふつーーーーに、
ほんとにふつーーーーーに、地上のカレーを標高2500mあたりで
再現したこと。
山小屋のお兄さんには
「頭おかしいんじゃないの?」と失笑されましたが。
この点はまあ、ユニークと言えばユニークなんでしょうし、
やろうと思えば出来なくはない、ということを実証できたので良かったです。
もう二度とやりませんが。
ちなみに焼酎は疲労から飲み干すことも出来ず。
翌朝山小屋のお兄さんに寄付して帰ってきました。
お兄さんも喜んでた(ようにみえた)し、
まあ、800ml、運んだ甲斐があったもんです。
金峰山小屋
そんな金峰山。
まあ悪い記憶が大半なのですが(自分たちのせいで)
山自体は素敵なところなので
最後に山頂の写真を並べて今回はお別れです。
ありがとうございました。
山に感謝。